木が伐れない樵の業務日誌

新潟県村上市にある民間の林業会社に勤めている30代男が林業についてつらつら書いてます。

また自分の山林に行きたくなる時代にするために

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 山林も宅地と同じように、その土地やその上に生えている樹木等は誰かしらの所有物であって、その所有者ごとに区切られています。我々樵は、会社で所有している山林を伐るだけでなく、他の人が所有している山林を伐採することがあり、その際はその所有者から立木(山に立ったままの状態の木)を買い取り、伐採に入ります。
 欲しいなと思った山林があった時、誰がココの所有者なのか確認する必要が出てきますが、この所有者確認というのはとても大変な作業で、なぜならば、現地に目印がなかったり、あったとしても分かりづらく、境が明確ではなく、しかも公図(土地の境界などを記した図面)などの資料の整備も進んでおらず、ほぼ基準がない状態で確認を取らなくてはいけないからです。では、どうやって確認するのか。それは所有者や集落の人達の「記憶や記録」頼みなのです。登記簿などで確認することはできますが、口約束で誰々に売ったとか、相続しておらず先代のままであるとか現在の状況が登記簿に反映されているほうが珍しく、本人達にしか分からないことが多々あるので、直接話を聞くしかないのです。うちの会社でも買い入れる際調査を行いますが、誰の山がどこまであるのかチンプンカンプン。集落の人達(主に所有者本人やじいちゃん、ばあちゃん)がいないと何もできません。
 これらの作業において集落の人達にあって、私ににないものとは
 
・相談できる人を知っている→地域の人脈
・話を聞いてもらえる→地域での発言権
・かつて山で何があったか知ってる→地域の記憶
 
の3つがあると思います。これらは長年その地域で山と暮らしてきたから出来ることであり、若者でソト者の私が代わりを務められるとは到底思いません。でも、なおさら、そうであるからこそ、最近、地域の山のコトが分かる人達がいなくなった時のことをよく考えます。
 
 話が変わりますが、ここ1,2年、スギ丸太の注文材の売れ行きが安定しています。これまでは一年の中でも季節によって注文数に波がありましたが、最近は年間を通して注文が入ります。隣県でもスギ丸太を扱う大型の製材工場も出来てきているので、需要が増えることが予想されます。
 
ところで、この需要増の恩恵を全ての「木を出せる」会社が受けられるのでしょうか?
 
 最近建設されている製材・合板工場などは、大型化・高効率化が進んでおり、生産性が非常に高く、生産スピードに原料調達が追い付かないほどだそうです。なので、これら製材・合板工場などは先を見据えた計画的な原料の確保に力を注いでいるようです。
 そして「事前にどのくらい木が出るのか把握できる」というのは、製材・合板工場などの需要者にとっては非常に重要な情報であり、計画力と実行力そしてその確実性という『信頼』がセールスポイント(付加価値)になりつつあると思います。
 
 さて、『信頼』を得るための計画力と実行力を手に入れるためにはどうすればいいのか。自社の生産能力の向上と把握も重要ですが、一方で立木や山林の確保つまり「仕入れ」の重要度が増していると思います。せっかく生産能力の高い伐採・搬出チームがいても伐れる山林がなければ、木は出せません。
 
 全国には様々な「木が出せる会社」がありますが、年間を通して自社で所有している山林だけで仕事を回せていけている会社はほぼいないのではないでしょうか。
大抵は、山林の所有者から立木を買い、木を出せる山林を探してきている(仕入れている)と思います。計画的に木を出すには、計画的な仕入れを行わなければいけません。仕入れ力が必要です。
 
 ここで、先ほどお話した山林所有者を明らかにする作業の重要性が出てきます。いかに、地域の山林の所在と所有者を明らかにしておくかが仕入れ力に直結しているからです。このままでは、せっかく需要が高まってきているのに、木があっても所有者が分からなくて、伐れない山林がたくさん出てくる状況になってしまいます。いかに地域の山林に詳しい人達がまだ元気なうちに誰でも分かるようにしておけるか。この下準備が計画的な仕入れ「仕入れ力」に繋がっていくと思います。
 
 また、同時に山林についての情報が所有者の家族に引き継がれてなくなっている課題についても取り組んでいかなくてはいけません。なぜ家族で引き継がなければいけないか。上記でも話しましたが、地域の山のコトを知っているということは、その地域の暮らしや歴史を知っているということ、そしてこれは長い時間を掛けて培っていくものです。ですので山林の所有者はその地域で育ってきた・関わってきた人たちに引き継いでいってもうべきだと思います。
 
 では、この課題を解決していくにはどうすればいいか。まず、引き継がれない主な原因は「山林に興味が無い」からだと思います。かつては、山林は薪を取るために活用したり、材を売って一定の収入が見込めたので、こまめな管理がされており、所有者自身が山林のコトをよく知っていました。しかし、今は薪も昔ほど使われなくなり、収入も見込めないため、山林を所有している意味や価値というものを所有者自身で感じ取れなくなってしまっています。
 
 そのためにも、我々「木を出せる」会社や樵が地域の山林管理に力を入れ、もっと地域の山に目を向けなければいけないと思います。伐るときだけ所有者さんと関わるのではなく、間伐など保育の段階から所有者との交流を深め、この山林の情報や価値を所有者に発信し続け、所有者が自分の山林に意識を向けてもらい続けてもらうように働きかけなければいけないと思います。
そして
 
 山林管理を行い所有者に情報を発信する→仕入れ力につながる→会社と所有者の収益の確保につながる→所有者の意識が山に向く→さらに山に投資をする→山が保たれる
というサイクルを作らなくてはいけません。
 
 木を出せるだけの会社では生き残れない。林業は地域へのサービス業も担わなくてはいけない時代が来ていると思います。