木が伐れない樵の業務日誌

新潟県村上市にある民間の林業会社に勤めている30代男が林業についてつらつら書いてます。

モノの値段の決まり方、丸太の値段の決まり方

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 この間、県内で行われた、丸太の競り市に行ってきました。何回か見たことがあったので、お馴染みの光景なのですが、丸太、特にスギの丸太の競りはちょっとおかしなことになっています。そう。市場で行われるスギ丸太の競りは、値段を下げる競りになっているのです。魚市場だと、大きな声が飛び交っていて、値段が上がっていくイメージがありますが、木材市場(広葉樹は違いますが)はそうではありません。「その値段じゃ買えない。」「それもダメ。」「ダメ。」「そのくらいだったら買ってもいいかな。」という感じで値段がどんどん下がっていきます。この市の光景は何度みても衝撃的で、異様で、雰囲気もどこか暗いのです。それは、今の社会においてスギ丸太の値段が如何に低いのか、その現状をまざまざと見せ付けられているからだと思います。
 そしてこの日は、とある山の所有者さん(仮名:山さん)も来ており、この市をみて(林業界の現状をよくご存知の方ですが)、肩を落としていました。
植栽から始まり、草刈り、雪起こし、除伐、間伐、枝打ちと何十年にも渡りお金と時間と労力を費やして育ててきた林だけど、その苦労が報われないのは悲しいことです。

 

 平成22年版森林・林業白書では植栽から50年生の林まで仕立てるのに約248万円/ha掛かるのに対し、50年生で主伐をする際の立木販売収入は約150万円/ha約174万円(2008年丸太価格基準)と試算しており、主伐による収益では、それまでにかかった経費が賄えないという報告をしています。先ほどお話した山さんの林を育てる苦労を加味した値段では誰も買ってはくれないということです。

 

 一般的な製造品(例えば缶コーヒー)の販売価格は、原料の仕入れ経費や製造経費等に利益を加えた販売単価(経費の積み上げ単価)と、買い手側の缶コーヒーならこのくらいの値段が妥当だという値段(商品価値、相場)とが釣り合っている(いや売り手が釣り合わせることができている?)いますが、丸太は「積み上げ価格>商品価値」となっているのです。
 釣り合わせることができていない要因は丸太を生産するまでにかかった経費の積み上げ価格に対し商品価値が低いことも一つですが、その他に経費を削減できないことも要因の一つです。缶コーヒーは「積み上げの単価=商品価値」にするために仕入れ価格は価格交渉によって、製造経費は製造技術の向上等によって、「積上げの単価(コスト)」を抑えることができると思いますが、スギ丸太はそうもいきません。主伐を迎えた時点で、植林した当時の苗木の値段を抑えたり、間伐のコストを抑えたりすることは出来ないのです。そう、過去にかけたコストは削減することはできないのです。


丸太として売り出す木を「積み上げの単価=商品価値」にするには、商品価値を上げていくしかないのです(私は商品価値を上げていくには、「流通の改善」、「付加価値の創出」が必要だと思っていますが、このことについては、別の機会にまとめたいと思う(多分))。

山さんの苦労が報われる林業にしていかなくてはいけませんな。


まとめ
○  現在の丸太価格ではそれまでに掛かった経費を賄えない。
○ 丸太にする段階で、植栽から保育までにかかった過去のコストの削減はできない。
○ 利益を出す林業にするには商品価格を上げるしかない。
○ 商品価格を上げる工夫(流通の改善、付加価値の創出)が必要。